毎年5月の業界風物詩として補助金があります。補助金とは事業計画を元に、国や地方自治体が審査を行い、採択者には必要経費の一部を国が後から支払ってくれるという制度です。事業経費の半分から1/3程度が最終的には自己負担となるものの、「どうせ貰えるものなら貰いたい」という思いから、安易に手を出す企業様が多くなっています。
また、これは自戒も込めてなのですが、レベルが低いコンサルタントほど、補助金営業に頼る傾向が強いです。どういうことかというと、補助金に関する話であれば、どんなに自信が無いコンサルタントであってもひとまず話を聞いてもらえる、という現実が挙げられます。実際、補助金専門を謳うコンサルタントも多く見受けられます。
実際に補助金を活用された企業様を観察すると、きちんと制度を活用できる企業様の条件は以下の3つだと思っています。
1. 毎年きちんと減価償却をした上で、営業利益が出せている
2. 補助金と適度な距離感を保てる余裕がある
3. 事務処理をきちんと行うことができる
1. 毎年利益が上がっているということは、補助金活用の大前提です。補助金というのは今までとは違う、何か新しいことに対して、行政がお金をくれるという制度です。つまり、本業が順調でなければ、新しいことに追加投資をしても砂上の楼閣になってしまいます。
2. 補助金と適度な距離感を保つということですが、事業計画はあくまで計画です。採択された計画も状況の変化により、すぐに時代遅れになってしまいます。そもそも、採択された計画がそんなによい計画なら、審査員が自分で経営すれば良い話なのです。計画は計画として考えるけれども、例えば製造業で言えば、実際に機械を事業活動に使えるようになる生産転用後を見据えて、倉庫に置きっぱなしの設備にならないか、きちんと検討する必要があります。
3. 補助金実務には高度な事務処理が不可欠です。意外かと思えますが、多くの中小企業では慣れない補助金の事務が本業を圧迫すると言うことが起きがちです。当たり前のことではあるのですが、書類をきちんと時系列に沿って整理できているか、スキャナでPDF化して電子保存することができているかというところから始まり、財務諸表、とりわけ減価償却の意味を理解しているか(わからなければ専門家に納得のいくまで質問をしているか)まで、仕組みの理解が必要です。
何より補助金で意識すべきことは、補助金を一度受け取ると、次もその次も欲しくなってしまう麻薬に似た性質があるということです。麻薬は麻酔にも活用できますから、全ての補助金がまずいというつもりはありません。しかし、50万円の持続化補助金を受け取るために、お客様以上に国の方を見るようになったら、それは商売ではないと思うのです。
特に、私が専門とする伝統的工芸品領域の補助金である伝統的工芸品産業支援補助金(伝産補助金)では、状況は更に悪化しています。補助金自体の仕組みが古く、Webサイトの構築といった複数年にわたる事業には活用できません。そのため、展示内容によっては効果がないにもかかわらず、毎年デパートで職人が実演販売をするというような補助事業が繰り返されているのが実態です。
やろうと思えばできるけれども、あえて補助金を使わない。そういう選択肢の方が、むしろ素晴らしいと思います。