今年に入ってからバブルの様相を呈している事業再構築補助金。謎めいた先行チラシの影響か、持続化給付金的にお金を貰えるという勘違い、あるいはその勘違いを煽るような補助金コンサルタントの動きが目につきます。
2021年3月17日(水)付の資料で、申請の最低条件となる「事業再構築指針」「事業再構築指針の手引き」が公開されましたので、一度内容を確認してみたいと思います。
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_sai...
補助金を作成する上で欠かせないのは「言葉の定義」をきちんと理解することです。特に補助金額が高い事業では厳密な定義を行っており、法律の勉強と同じくご自身で表を作りながら資料を読み込んでいくとよく理解ができます。本来政策担当者もこのような表を見ながら資料を記載していると思われますので、本当なら公開頂きたいところですが、ここら辺は専門家といわれる方々の創意工夫があって良いのだと思います。
それでは早速、今回の事業再構築補助金で最低限求められる内容を一覧表にまとめてみました。
図が小さいので以下URLから大きな画像にアクセスできます。
https://app.box.com/s/cedbc2nos72qmqjryhv...
一言でいうと、この補助金はアンゾフの成長マトリクスでいうところの、「多角化」に該当します。これは「地の利がないからやってはいけない」と経営のセオリーで言われる内容です。企業買収したとしても失敗する公算が大きい危険な一発逆転経営を政府が推奨しているという構造を理解しつつ、したたかに使うという、経営学のセオリーの上を行く非常に難度の高い内容です。特に業種転換、業態転換は起業慣れしている方以外は地雷の香りしかしません・・・。
図が小さいので以下URLから大きな画像にアクセスできます。
https://app.box.com/s/6eug3n6grh0hj1kossc...
アンゾフの成長マトリクスは通常4マスですが、ここでは富士フイルムが作成したという9マスタイプを使います。50万円~100万円の持続化給付金はa 市場浸透にあたることが多いです。ここの支出は出しても出さなくても経営にそこまで影響がない範囲と言えます。製造業系の補助金であるサポイン(3年間で1億円)、ものづくり補助金(1年間で1,000万円)は既存市場で技術を深化させる場合に使うことが多いです(もちろん事業者様によっては多角化もあります)。伝統工芸でときどき出てくるジャパンブランド育成支援事業のような販路開拓系の補助事業はb 市場開拓を目指します。そう、ここまではまあ良いのです。
しかし、事業再構築補助金はひと味違います。いきなり全力でd 多角化を求めてくるのです。
・製品等の新規性要件(and条件):
①過去に製造等した実績がないこと
②主要な設備を変更すること
③競合他社の多くが既に製造等している製品等ではないこと
④定量的に性能又は効能が異なること
・市場の新規性要件
①既存製品等と新製品等の代替性が低いこと(カニバリズム防止) → 言いようではありますが、データで示すのが大変です
②既存製品等と新製品等の顧客層が異なること(任意要件)
・売上高10%要件
3~5年間の事業計画期間終了後、新たな製品の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定する
・売上高構成比要件
3~5年間の事業計画期間終了後、新たな製品の属する業種が、売上高構成比の最も高い事業となる計画を策定する
ここで注目したいのは売上高と構成比に関する要件の使い分けです。もちろん、「売上高構成比要件」の方が厳しいのは間違いありません。つまり、①新分野展開と④業態転換より、②事業転換と③業種転換の方がより多角化の度合いが高く、特に③業種転換は大分類を変えるという点で、「紳士服店、ネットカフェ始めちゃいました!営業利益は既に快活CLUBの方が高いです!」という「紳士服のAOKIの半分以上はネットカフェでできています状態」を中小企業レベルで5年以内の計画で実現する必要があるのです。
そう、多角化が危険極まりないから、通常は「過去に製造等した実績を作る」ことで、現実的かどうかを判断するのです。が、そこを見事に潰しにかかっています。
もし計画が達成できなかった場合、補助金返還等があり得るのかは気になるところです。が、そんなことが小さく見えるくらいのインパクトがこの補助金にはあります。1兆円を超える予算の執行率が悪くなり国会で担当者が叩かれないかが非常に気になるところではありますが、そんなことは制度設計する側も百も承知だと思われます。一度頭を冷やして、本当にこの補助事業を使えるような「したたかな計画」とは何か考える必要がありそうです。